取締役CFOの土井裕介です。2022年10月より連載として、「ゼロからのバックオフィス構築物語」をリリースいたしました。
バックオフィス構築物語の総括として本記事を公開させていただきます。
昨年度の包括的な振り返り
バックオフィス構築物語の総括の前に、昨年度の包括的な振り返りから記載させていただければと思います。
2022年はロシア・ウクライナ戦争や、引き続きの新型コロナ感染症等による原材料・燃料高騰による世界的なインフレの加速、急激な為替変動など世界を揺るがす事象が発生しておりました。また、日本での選挙活動中の悲惨な事件の発生や五輪組織委員の贈収賄事件の発覚、アメリカ中間選挙結果における上院・下院での捩れの発生など、政治的にも予断を許さない状況が続いております。
一方で、FIFAワールドカップでの日本代表の活躍や、アルゼンチン対フランスでの決勝戦など人々に感動を与える出来事もありました。
スタートアップを取り巻く環境としては、2021年末あたりからの金融市場の冷え込みに端を発して、それまで成長を第一としてきた企業評価から、成長もさることながら収益・効率も同時に求めるという、ある意味当たり前の世界観に変わってきたこともあり、2021年まで相次いでいた大型エクイティ調達のニュースを目にすることは少なくなりました。実際に昨年の状況を色々とお伺いすると、十分なランウェイを確保するために想定していたよりも低いバリュエーションやダウンバリュエーションでの調達を実施せざるをえなかったといった情報も耳に入ってまいりました。
これは上場企業を見ても顕著であり、2020年中盤から2021年の末にかけて計画値ベースで見るPSRで15〜25倍前後で評価されていたSaaS企業においては、昨年の2022年では10倍以下になっており足元では5-6倍で推移している企業も多くあります。
さらに新規上場企業においてはその評価の厳しさは顕著に出ており、基準期ベースで3倍程度の企業も珍しくありません。特に新規上場企業となると、2021年以前に実施していた直前ラウンドにおいて、非常に高いバリュエーションとなっている事も含めて、大きくダウンバリュエーションで市場に出ていることにもなっており、直前ラウンドを参照してきていたステークホルダーとの期待値とのズレがあった事も含めて、IPO時の株価決定にあたってはコミュニケーションに相当程度の苦労があるのではないかと推察しています。
そのような、政治・経済ともにこれまでの延長ではなく、世界的にターニングポイントを迎えた2022年を終えて、新しく2023年があけました。2023年においても国内での原材料費高騰が予見されており、身近なところでは4月に電気料金の値上げが実施予定であることや、小麦をはじめとした政府売渡価格の上昇に伴う値上げ懸念など、日本ではこれまで抑え気味であったインフレ率もコストプッシュを背景として上昇が避けられないものと考えられており、企業活動においても決して楽観視できる状況ではないと思われます。
しかし、そのような環境であるからこそイノベーションが生まれ、且つ時代を象徴するような革新的な企業が生まれてきたのも事実だと思っていますので、その意味ではチャンスであるものと考えております。
当社においても、金融業界におけるオンライン商談システムの4年連続No.1の実績をいただいており、主に証券・銀行をはじめとした金融業界の皆様にお使いいただいている状況にあります。2023年については、カスタマーサクセスの充実とともに、機能拡充をすることで、ご利用いただく皆様にとって価値のあるサービスとなるように邁進してまいります。
バックオフィス構築のポイント
さて、記事の構成として、管理部門をゼロから作るにあたって各分野(経理・法務・知財・内部統制・労務・CIT)において体制構築する上での苦労した点を中心として、あるべき姿と実体験について発信をさせていただきました。
私からは、このバックオフィス構築物語のまとめとして、このベルフェイスにおいてバックオフィスを構築するにあたり考えていたことを中心に記事を書かせていただこうと思います。
スタートアップの成り立ちとして、バックオフィスを構築することを意識し始めるタイミングはある程度決まっていると思っています。具体的には、
- IPOを目指すにあたって、証券会社や監査法人からバックオフィス体制を作るように指摘された
- 業容規模が大きくなったことにより、従業員数も増加したことから、システマチックに会社の体制を構築しなければ会社がまわらない状況になってきた
といったことが発生した場合に、それまで総務・経理・労務などの個別に対応していた機能を有機的に結合し、組織として動かしていくためにバックオフィス全体のデザイン設計・運営が必要となるといったイメージかと思います。
特に前者であるIPOを物事の起点としてバックオフィス構築がスタートしてしまうと、IPOという目的達成のための手段になってしまうこともあり、経営者の思考として形を整えさえすれば良いと思ってしまうこともあり、そうなると単なるプロジェクト進行上で必要なコストといったくらいに受け取られてしまいかねません。
そこで、管理部門の構築にあたっていくつか視点が必要だと思っていますので、その点についてお話をさせていただければと思います。
ポイント1 コストか投資か
バックオフィス部門に投じる金銭をコストとして捉えるか、投資として捉えるかによって、その期待する役割が大きく変わります。コストとして捉えるのであれば、当然バックオフィス人員についても最小単位での構築となるのですが、その中で業務改革を期待するというのは至難の業となるでしょう。
何をもってコストなのか、投資なのかを一概に判断することは難しいですが、役割として期待した内容までを満たすだけであればコストとして考えるべきかもしれません。投資となれば、当然その利回り含めて投下したもの以上のリターンを期待することになります。人員という形でバックオフィスを充足させる際に、当初期待値以上もしくは期待範囲を超えて物事を構築・実装・運用を行なっている場合においては投資といっても差し支えないでしょう。
上記のように考えると、特に会社全体を巻き込んだ業務改革の進行には当事者たるバックオフィスメンバーのコミットメントや能動的な働き方が必要となります。むろん、それを引き出していくのは上長の役割とも言えますが、自然性・可燃性(稲盛和夫さんの言葉ですね。)の方々を対象にした採用戦略を実施していかなければ、バックオフィスにかける金銭はコストになってしまいます。
言われたことだけをやってくれれば良いと経営者が考えるのであれば、かけるべき金銭は最小限としてコストとして捉えるべきですが、そこに発展性や業務改革等を期待するのはお門違いと言えます。
※念の為記載しますが、バックオフィスのみならず事務職にはルーチンワークが多分にあります。最近は様々なWebサービスを用いたバックオフィスDXが進み、だいぶ改善されましたが、やはり会社組織をまわすという観点においてルーチンがなくなるということは考えにくいです。そういったルーチン業務をしっかりとミスや遅滞なくまわすことに特化されている方々がおり、そのような方々はそれだけでもしっかりと会社に対して価値を出しています。その場合、そのような強みを持つ方々に業務改革をせよというのは方向性が違いますし、それはそれで必要な業務ですので、きちんと切り分けが必要です。
ポイント2 外注するか、内製化して取り込むか
昨今では、バックオフィス業務を外注で実施できるサービサーの方々がだいぶ増えてきたと思います。以前は大きなグループ会社において、シェアードサービスとしてバックオフィス専門の子会社を設立し、グループ会社の管理業務をその子会社が業務委託で担うという形が多かったのですが、昨今では経理・総務・労務・広報・・・と多種多様な分野において専門性を持ちつつ、バックオフィスの特定の業務を外注で依頼できるなり、便利になったと思います。
さて、その上でバックオフィスを外注するのか、内製化するのかも非常に悩ましい議論です。メリット・デメリットがありますが、よくある内容を以下にまとめてみました。
金銭的な部分については、任せる業務によって外注と内製化で必ずしもどちらが高くなるとは言い難いので、ここではあえて記載をしていません。ただ、基本的には各分野の戦略や体制構築を含めた一連のプロジェクトを外注していくと割高になるように見受けられます。
この外注か内製にするか問題についてはどちらが良いといった明確な回答はありませんので、どういったポイントを優先するのか、はたまた会社のステージ的にどこまで金銭的な部分を変動費化させるのか、それとも固定費化させるのかということを考えながら実行していく必要があります。
所感的には、IPOにまつわるプロジェクトを進行させる上では、経理業務や労務業務は内製化していく必要がありますし、外注の場合は最悪リソース管理ができない(正確にはやり難い)ことを考えても、上場審査上は大きな論点になってしまいますので、そのようなステージになってきた場合には、会社としてのルーチンに近い部分は内製化していきつつ、要所要所で切り替えていくというパターンが良いと思います。
あくまで個人のイメージですが以下のように切り分けていく流れでしょうか。
上記はあくまで一例なのと、各士業の領域に限らず現在は様々な部分で外注化できますので、もっと外注の幅は広いです。ただ、単純化して分野ごとに捉えると上記のようなイメージになればバックオフィスとしての成長としても素晴らしいと思います。
ポイント3 ステージにおける人員配置の考え方
実は、外注化するにしても内製化するにしても、ここの人員配置が非常に重要になってきます。外注化するにあたって、外注先はその分野について経験豊富であるはずなので、任せる業務については安心できるとは思います。しかし、会社全体のことを考えると、どこの業務をいかに切り出すのか、また、別の業務とどのように繋げるのかといった部分については当然社内で担っていく必要があります。そうすると、外注するにしてもコントローラーが必要となってきますので、それらをまかなうことができる人員が必要となります。
コンサル経験者やプロジェクトリーダー/オーナー経験者であれば、バックオフィス業務未経験であっても馴染んで進行させていくことが可能です。しかし、バックオフィス業務未経験者の場合、深ぼった領域での会話が難しい場面も多いため、最終的には何らかの形でバックオフィス業務に従事したことがある方が必要となる場合が多いというのが実情です。
また、内製化するにあたっても、当然ですがバックオフィスのことがわかっていなければ、どの分野からどのように手をつけていくか、採用方針や対象となるジョブディスクリプションはどのようになるのかという面でイメージし難いため、1人総務をやるメンバーとは別にバックオフィスを網羅的に見てきたことがある人間が必要となるのは必然と言えます。
スタートアップの場合、外注化するにせよ内製化するにせよ特定ポジションには人員配置をする必要があります。実際にはバックオフィスは各分野において専門性が非常に深いことから、各分野に担当者を配置していくのが理想です。
しかし、企業成熟度合いが未熟な状況においては、金銭的な負担や会社全体でのバックオフィスに対する人員のアロケーションを考えると、一人の担当者が知見としてそこまで深くない分野においても包括して見ていかなければならない瞬間があります。
ここで注意が必要なのがバックオフィス人員はスペシャリストとしてキャリアアップしていくが故に、ゼネラリスト的な形で他の分野も同時に苦労しながら見ていく瞬間を嫌ってしまうことがあるという点です。当然、異なる分野においても自分事として取り組んでいくことができる前向きな人材も多くいるのですが、バックオフィスで業務を担ってきた方は残念ながら保守的な人材が多いように見受けられます。
そのため、スタートアップなどの企業成熟度が低い企業がバックオフィスにおいて人員配置を行う場合には、管理部門全体を見渡した経験のある人材を雇い入れるのがベストだとして、セカンドベストとしては、バックオフィス業務としては経験が浅くとも様々な経験ができるという側面に注目してくれて、能動的かつ意欲的な人材を採りに行くことがセカンドベストと言えるのではないでしょうか?ここは企業と一緒に成長してもらうというぐらいの心意気で見守る方が良いと思います。
ただ、企業が成長してくれば、各分野においてそれなりの知見者を揃えていく必要が出てきますので、そのようなタイミングになってきた場合には、会社全体のアロケーションを見ながら人材の登用を進めていきましょう。
ちなみに、会社によって何をバックオフィスと捉えるかという話はありますが、決して正解はないものの、会社全体の従業員数に対して、9~12%前後がいわゆるバックオフィスの従業員割合としては適正なラインだと思います。この辺りは本当に会社の事業等によってバックオフィス側で受ける業務工数がだいぶ変わりますが、従業員数の増加と業容拡大に応じてバックオフィス業務の増加が見られやすいので、それらを鑑みても上記のようなイメージで大きな間違いはないでしょう。
さて、上記3点が管理部門を構築するにあたって必要になってくるであろう視点になります。
最後に
最後に、バックオフィスをこれから構築される方へメッセージです。
個人的な経験として過去を振り返ると、バックオフィスを構築して仕組み化が進行するほどに、それまで自分が抱えていた業務が圧縮され、もしくは解放されていくことに繋がります。それが更に進行していくと、自分が今まで担っていた業務は手を離れ、それまでの業務範囲においては自分自身が会社や組織にとって不要となってくる瞬間が到来してくることでしょう。それは属人性の排除という側面からも正しいことであり、時に自分の業務や役割だと守りに入りたくなる時でも、会社や組織全体のことを思えばこそ、次のステージに向けて自分を解き放ち、会社への次の価値提供に向けて自分自身を高めていく必要があります。この観点が失われると、組織として停滞してしまうことに繋がるので、仕組み化し積極的な業務の最適化と分散を行なっていきましょう。
冒頭にも記載しましたが、2023年は社会的な政情及び経済動向の不安定さも含めて、先行きが見通し難い状況が続いています。
しかし、そのような時こそイノベーションや新たな商機が生まれると思っています。
当社におきましても、顧客へ新たな価値を提供するとともに、顧客目線で一歩ずつ事業を伸ばし、時には果敢に攻めていきたいと思っています。
読者の皆様におかれましても、良い年になることを祈りまして、筆を置かせていただきます。
2023年も何卒よろしくお願い申し上げます。