2022.10.19

”収益認識基準”の導入までの道筋に迫る

 ベルフェイスのコーポレートブランディングの一環として始まった、連載企画「ゼロからのバックオフィス構築物語」。

 第2話をお送りするのは、コーポレートグループ 経理財務チームの前田さんです。

 本話では特に、「収益認識に関する会計基準」について深ぼった内容となっていますので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。

 


 

 はじめまして。ベルフェイスで経理財務チームに所属している前田と申します!2021年7月に入社して、現在1年程度勤務しております。先日公開された、経理財務チームを統括している田村さんの記事に続き、2回目の記事を担当いたします。

 前回の記事は『経理財務体制のゼロからの整備』という内容でしたが、今回の記事では、最近、大手企業ですでに強制適用となった「収益認識に関する会計基準」に関して、当社が新収益認識基準を適用する上で重要だと感じた内容を共有できればと思います。

 全体の流れとして、まず新収益認識基準を具体的に説明したうえで、当社での留意ポイントや苦労した点を記載していきます。特に、IPOを志す企業は検討必須ですので、ぜひ最後までお読みいただければと思います!

 ※なお、文中では収益認識に関する基準を「収益認識基準」、収益認識に関する基準の適用指針を「収益認識基準の適用指針」と記載しています。

 

基準の特徴

 まず初めに、旧来の基準と比較した収益認識基準の特徴を挙げると以下の3点となります。

  • 世界的に用いられている会計基準と内容が整合した点
  • 収益の金額や認識時期について具体的に定められ、個々の企業の判断の余地が狭まった点
  • 情報の開示が増えた点

 

収益認識基準を適用する背景

 国内では、収益認識基準は2021年4月1日以降開始する連結会計年度(事業年度)より、適用となりました。これにより、企業決算に関するニュースには、「XX社は、〇〇年〇〇月から新たな収益認識基準を適用しており~」という文言がよく出てきていましたね。この基準が導入された理由についても、簡単に説明したいと思います。

 最も大きな理由としては、EU諸国と米国が先行して、新しい収益認識基準を導入し、日本がそれに歩み寄ろうとしたことが挙げられます。 EU諸国も米国も、旧来の基準では実態に即した会計処理をできない取引が存在していた点、そもそも基準が難解で企業ごとに解釈が異なり、同一の取引であるにもかかわらず企業間で異なる会計処理になっていた点、収益認識の方法に関する情報の開示が乏しかった点など、各々自国で適用される収益認識の基準に問題点を抱えていました 。

 これらの問題点を解消するために、EU諸国と米国それぞれで、新たな会計基準を導入しました。ここで重要なのは、EU諸国と米国は基準は別々に作成したものの、その内容は EU諸国と米国で統一されたことです。これに追随して、EU諸国や米国以外の国々でも、自国の収益認識の基準を、EU諸国や米国で採用された内容に合わせていきました。

 この流れによって、以下の状況が生まれました。

 日本:古い基準を採用、かつその内容を採用しているのは日本だけで、真似されていない
 米国&EU諸国:新しい基準を採用、かつ、その内容は多くの国で真似されている

 このような状態ですと、海外の投資家からは、日本の企業の売上の金額は独自の方式が採用されているため、諸外国との比較が出来ず、投資の判断が難しいと判断され、資金調達や業務提携の機会等を逃してしまう可能性があります。

 そのため、日本では、この状況を受けて、冒頭の特徴の1点目に記載した通り、諸外国が適用した新しい収益認識基準に内容を統一するように、新しい収益認識基準を導入することが決まりました。(※1)

 なお、同様の理由で、収益認識基準だけでなく、退職給付に関する会計基準や、連結財務諸表作成に関する会計基準、時価の算定に関する会計基準など、2010年頃から様々な会計基準が米国及びEU諸国が採用する会計基準に合わせる形で改正されてきています。そのような背景から、IFRSに調整される形で、今後も日本の各会計基準が改正されることが想定されます

 

 

収益認識基準を適用する要件と導入の進め方

 

強制適用になる要件と時期

 中小企業の会計に関する指針(※2)に基づいた開示を行っている企業や、創業間もない企業では、収益認識基準を適用していない会社もあると考えられます 。
 しかし、今後、企業の成長やIPOを目指すとなった際には、中小企業の会計に関する指針から脱却し、大会社が採用している会計基準を採用しなければなりません。

 適用の時期は明確ではありませんが、企業が成長し大会社となった際には、その年度から適用が求められ、IPOを目指すとなった場合には、上場申請書類のⅠの部で開示される会計期間を考慮すると、少なくとも申請期の2 期前からは適用が必要になると考えられます。

 これは個人的な見解ですが、IPOを目指す際には、監査法人のショートレビューを受ける前に、適用することが望ましいと考えています 。また、収益認識基準に基づいた整理がされている場合、そうでない状況よりも、監査報酬が低く抑えられる可能性もあります。

 

収益認識基準の導入の進め方

 適用するといっても、準備なしには適用は難しいです。そのため、経理を担当しているメンバーをアサインし、適用開始する事業年度の6ヶ月から1年前程度から、準備を開始するのが妥当と考えます。

 もちろん、適用開始した事業年度以降に新しい収益認識基準に変更することも可能ですが、期中での変更は旧基準で行ってきた会計記録の修正など の手戻りが発生し、工数が増えますので、なるべく適用開始する事業年度の開始前には完了している方が良いのではないでしょうか。

 

情報収集の方法

 プロジェクトを立ち上げる メンバーには、事前に基準の基礎知識を身につけることが求められます。情報収集については、例えば以下の方法が考えられます。

  • 会計基準の原文を読む
  • 参考書籍や解説記事を読む
  • 他社の開示事例を見る

 2点目の方法では、監査法人や税理士法人等が出版/公表している参考書籍/解説記事が参考となります。収益認識に関する会計基準の適用指針の最終改正が2021年3月に行われましたので、それ以降に出版/公表されたものがより望ましいと考えられます。

 3点目の方法では、特に同業他社が実際にどのような会計処理をしているかという観点で、情報を得ることが出来ます。開示については、EDINETや各社のホームページで開示されている有価証券報告書を見ることが可能です。

 ちなみに、具体的に見る箇所としては、以下の5 点が参考となります。

  • 連結貸借対照表または貸借対照表
  • 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項に記載される「重要な収益及び費用の計上基準」
  • 個別財務諸表の重要な会計方針に記載される「収益及び費用の計上基準」
  • 連結財務諸表または個別財務諸表に注記される「収益認識関係」
  • 連結財務諸表または個別財務諸表に注記される「会計方針の変更」注記

 

収益認識基準の導入の具体的な進め方

 続いて、当社がどのようにプロジェクトを進行していったかを記載します。会社により準備方法は様々だと思いますが、当社での事例が参考になればと考えています。

 

適用対象となる取引を特定

 収益認識基準については、収益が発生するすべての取引が適用対象となるわけではありません。例えば、受取利息などの金融収益は、適用が除外されています。(収益認識基準3項)

 また、損益計算書上で、営業外収益で掲記されるような収益については、基本的には収益認識基準の対象外となります。この理由としては、基準が想定している顧客との契約から生じる収益の「顧客」とは、通常の営業活動の中で取引先となる相手を想定しているため、通常の営業活動外で生じる収益が掲記される営業外収益は対象外となるためです。(収益認識基準6項)

 ですので、これらの取引については除外して5ステップの検討に入ります。

 当社は、『bellFace』の月額利用料及び初期費用以外については、営業外収益として扱っており、5ステップへの当てはめは行っておりません。

 

 

5ステップへの当てはめ

 収益認識基準の適用対象外の取引を除外しましたら、収益認識基準の5 ステップに当てはめていきます。冒頭の特徴の2 点目に記載した通り、収益の金額や認識時期については基準で具体的に定められており、以下の①~⑤の5 ステップに当てはめることで方針が固まることとなります。

 ① 契約の識別
 ② 履行義務の識別
 ③ 取引価格の算定
 ④ 履行義務への取引価格の配分
 ⑤ 履行義務の充足による収益の認識

 まずは、顧客との契約を識別します。契約を「識別」と言っても、どんな契約があるかというのは、直近の日本基準で計上された売上を見れば、見当がつきますのでゼロから識別することは想定されていません。

 実務上は、導入プロジェクトを進めている会計年度やその前期の売上について、商品やサービスの種類別、契約期間別、オプションの有無別、販路別、代金の回収方法別に売上を分類するのが一般的と考えます。

 なお、今後新規の取引が発生する場合にはこちらも加えます。当社の場合は、『bellFace』の契約のみですので、分類はせずに次のステップに進みました。

 その後は、履行義務を識別します。①で分類した売上について、それぞれ、顧客に対してどのような財を提供しなければならないか、どのようなサービスを提供しなければならないかという義務を識別します。

 当社の場合は、『bellFace』の契約において、2つの履行義務を識別しました。

 1つ目は「契約期間中に『bellFace』の利用環境を提供する」、2つ目は「契約期間中に『bellFace』の導入のコンサルティングを行う」の2点を履行義務としました。

 その次に、取引価格の算定をします。つまり、契約から発生する売上の金額はいくらなのかを特定するということになります。

 当社の場合は、月額単価を明らかにしているため、売上の金額は、顧客から受領した申込書に記載のある金額と致しました。一見、単純そうに見えますが、サブスクリプションビジネスを行っている企業によくある 論点として、一定期間の取引量に応じたボリュームディスカウントが行われる取引が存在します。

 当社は、そういった取引は行っていませんが、行っている企業では、将来ディスカウントされる金額を見込んで、取引価格を算定する必要があります。こちらは、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表している「収益認識に関する会計基準の適用指針」の設例13が参考となります。(※3)

 その次に、②で識別した履行義務に③で決定した取引価格を配分します。こちらは一つの契約に履行義務が複数含まれている場合のみ必要となります。通常は履行義務の独立販売価格(収益認識基準9項)を用いて取引価格を配分しますが、その観測ができない場合には、一定の方法により配分を行います。

 当社の場合は、見積書において、月額利用料と初期費用について価格を明示しており、 前者は「契約期間中に『bellFace』の利用環境を提供する」という履行義務にリンクし 、後者は「契約期間中に『bellFace』の導入のコンサルティングを行う」という履行義務にリンクしています 。

 そのため、いずれの履行義務も、独立販売価格を観測できており、申込書に記載された価格に基づいて、履行義務に取引価格を配分しました。

 最後に、履行義務の充足により収益を認識します。履行義務の充足は、一時点で充足されるのか、一定の期間にわたり充足されるのかで分類されます。当社の場合は、いずれの履行義務も契約期間を通じてサービスを継続的に提供し続けますので、履行義務は一定の期間にわたり充足されると判断しました。

 

影響度を測定し、会議体へ報告

 5ステップが完了すると、次は会議体への報告が必要です。収益認識基準が適用されることについて、全社ないし適切な部門に周知し、影響額を伝えることが重要です。その場合、適用以前の会計年度の年次または四半期の数値について、新しい収益認識基準の場合にどのような数値となるのかを報告するのが良いと考えられます。

 

必要資料の特定

 新しい収益認識基準を適用する場合、会計計上する際に、今までは不要だった資料が必要になることもあります。5 ステップのアプローチをする際に必要となる資料は、普段のオペレーションで経理チームの手元にまわってくるように他部門に掛け合い、場合によっては、業務フローを変更することが必要となります。

 ここまでで、適用前の会計年度に準備することは終了となります。

 

期首利益剰余金の調整

 ここからは、適用を開始する会計年度に入った後の話となります。適用開始前の事業年度の決算が確定後は、普段の月次決算はこれまでに確定した5 ステップのアプローチに基づいて行えば問題ないですが、適用を開始する会計年度以前の連結財務諸表及び財務諸表について、収益認識基準を適用していたと仮定した場合の、影響額を算定し、その影響額に基づいて、期首利益剰余金などを修正します。

 

開示の勘定科目の検討・注記案の作成

 冒頭の特徴の3 点目に記載した通り、適用を開始する会計年度は、勘定科目が変更となる場合や、前期と比べて注記内容が一気に増えます。なので、決算が忙しくなる前に、事前に勘定科目の検討及び注記案の作成をしておくのが良いと考えます

 また、大企業では2021年4月1日以降に開始する連結会計年度(事業年度)から適用されていますので、参考にできる開示は豊富にあります。他社の開示は、EDINETに掲載されている有価証券報告書(直近で上場した会社の場合は有価証券届出書)から確認できます。

 具体的には、以下の注記が参考となります。

  • 連結貸借対照表または貸借対照表
  • 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項に記載される「重要な収益及び費用の計上基準」
  • 個別財務諸表の重要な会計方針に記載される「収益及び費用の計上基準」
  • 連結財務諸表または個別財務諸表に注記される「収益認識関係」
  • 連結財務諸表または個別財務諸表に注記される「会計方針の変更」注記

 

当社での導入でのポイント

 実際に当社でプロジェクトを進行するにあたっては、以下のポイントが特に労力が大きかったように感じます 。

  • 初期費用の整理
  • 期首利益剰余金の修正

 1点目については、当社では一部の顧客に対して、大型の導入支援プログラムを設計し初期費用として頂くケースが存在します 。当該取引に関しては、単純に期間按分とはならず、5ステップの5番目の履行義務の充足に関する会計方針の決定には時間を要しました。

 具体的には、プログラムの進捗度を毎月担当営業社員に確認し、それに応じた売上計上を行っています。

 しかしながら、このような運用を始めるまでには、進捗度をどのように観測するのかという論点があり、また 観測した進捗度について経理がどのように情報を吸い上げるかというオペレーション構築の課題もありました。この論点に関する整理については、検討を慎重に行ったこともあり、オペレーション構築には工数を要しています 。

 実際のオペレーションでは、進捗の度合いは、契約期間を通じて行われると想定されるプログラムの全工数を見積もり、実績として行った工数を毎月把握することで観測しています。 全工数の見積もりについては、導入支援プログラムの営業担当者が、契約が確定した時点で見積もるフローにしており、毎月の実績の工数は、営業担当者が、翌月の第1 営業日に経理財務チームに報告するようにしており、今のところは運用もスムーズに回っております。

 また2点目の、期首利益剰余金の影響額の算定についても、工数を要しました。当社は、初期費用について、契約時に一括して収益を計上しておりましたが、収益認識基準を適用する場合には、期間按分をしなければなりませんでした。

 そのため、基準が適用される前年度の財務諸表について、収益認識基準を適用した場合の売上金額を算定し、その金額にもとづいて、期首利益剰余金を行いました。こちらの算定は、契約1件1件に対して行ったこともあり、多くの工数がかかっています。

 実際には、当社では、1ヶ月程度時間を要しました。流れとしては、まず 営業側から、適用開始事業年度の前年度における 初期費用の売上情報を全て提出してもらいました 。前年度のデータが必要になるのは、当社の初期費用が発生する契約の契約期間が原則として1年間となっているため、適用開始時期から遡って1年については、適用開始事業年度の売上高に影響が出る可能性があるためです。

 経理側では、適用開始事業年度の前年度の初期費用の売上金額こそ把握していたものの、契約期間までは把握していなかったため、営業側に依頼する必要がありました。初期費用の金額と契約期間を把握した後は、初期費用の金額を契約期間で按分し、適用開始事業年度においていくらの売上が配分されるのかを特定しました。

 その後、収益認識基準の適用により売上の計上方法が変更になる旨、及び適用開始事業年度に、前年度に計上した売金額の一部が再度計上される旨を営業側に報告しました。そして、会計システムに、こちらの事象が反映された仕訳を登録しました。

 

おわりに

 以上、収益認識基準についての説明でした!まとめますと、以下の3点となります。

  • 収益認識基準は、世界の基準と合わせるために導入され、旧基準と比べて詳細に規定されており、情報開示が多い
  • 中小企業や創業間もない企業でも、企業の成長につれて、今後導入する必要がある
  • 収益認識基準の導入は、短期間では難しく、導入は計画的に行う必要がある

 少しでも、お読みいただいた皆さんの参考となれば幸いです。

 

 ※1:以下 の記事を参考
 日本公認会計士協会『IASBとFASBで共通化された 収益認識に関する会計基準
 企業会計基準委員会『IASBとFASB、収益認識についての新しい共同の基準を提案

 

 ※2:日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所、企業会計基準委員会が連名で公開しています。金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社、会計監査人を設置する会社及びその子会社を除いた会社が対象となります。

 (参考)日本公認会計士協会『改正「中小企業の会計に関する指針」の公表について

 

 ※3:企業会計基準委員会(ASBJ)『「収益認識に関する会計基準の適用指針」の設例

 

 

※ベルフェイスでは、現在採用を積極的に行っています。少しでも興味をお持ちの方は、ぜひ以下の情報も参考にしてみてください。

ベルフェイス株式会社

ウラ凸 – シリーズD資金調達「約30億円」のベルフェイスのウラ側へ、カジュアル面談で突撃しよう

この記事のタイトルとURLをコピーする”収益認識基準”の導入までの道筋に迫る https://bs.bell-face.com/2022/10/19/2022101901/
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